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名古屋高等裁判所 昭和47年(行コ)13号 判決 1972年11月29日

名古屋市昭和区石仏町一丁目七六番地

控訴人

脇田勝重

右訴訟代理人弁護士

宮崎巖雄

右訴訟代理人弁護士

南任

軍司猛

名古屋市瑞穂区瑞穂町西藤塚一番の四

被控訴人

昭和税務署長

高橋務

右指定代理人

服部勝彦

荒川登美雄

鳥居巻吉

小柳津一成

右当事者間の所得税更正決定等取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和四二年九月二五日付でした、控訴人の昭和三七年分所得税につき総所得金額を金三四一万七九三円とする更正処分および重加算税金二五万八、〇〇〇円の賦課決定、ならびに、昭和三八年分の所得税につき総所得金額を金一八八万九、八二七円とする更正処分および重加算税金一〇万五、〇〇〇円の賦課決定(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の提出・援用・認否は、控訴代理人において当審における控訴人本人尋問の結果を援用したと付加するほか、原判決事実摘示(別表を含む。)と同じであるから、これを引用する。

理由

当裁判所も、本件各処分の取消しを求める控訴人の本訴請求は理由がないものと考える。その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決理由に説示するところと同じであるから、これを全部引用する。

一、原判決七枚目裏九行目から一〇行目にかけて「同久村久一の各証言」とあるのを、「同久村誠一、同田中勇次の各証言(ただし、久村誠一および田中勇次については各一部)」と改める。

二、原判決八枚目表五行目「事実が認められ、」から同六行目「証拠はない。」までを、「事実が認められる。」と改め、その次に左のとおり付加する。

証人田中勇次は、「太道相互銀行(現在中京相互銀行)においては、いわゆる導入預金をしたことはない。同相互銀行中市場支店における本件無記名定期預金五〇〇万円は、原告が預金したものであり、また、当時同相互銀行が加茂免自動車株式会社に資金を貸し付けたことはあるが、右定期預金の見返りとして右貸付けがなされたというような関係はない。」旨供述し、また、証人久付誠一は、「第三相互銀行上前津支店における本件無記名定期預金二、〇〇〇万円のうち昭和三七年一二月一九日および同月二〇日の一、五〇〇万円の預金は、原告が預金したものと判断され、かつ、そのころ同相互銀行が加茂免自動車株式会社に資金を貸し付けたことはあるが、右定期預金はいわゆる導入預金ではない。」旨供述する。しかしながら、いわゆる導入預金には種々の態様があり、最も狭義には、預金等に係る不当契約の取締に関する法律により禁止され、かつ処罰の対象となるもの、すなわち、預金者が当該預金債権を担保として供することなく、預金者の指定する特定の第三者に対して金融機関が資金の融通をすることを約するものを指し、一般に金融機関において導入預金という場合には、右の趣旨のものを指すことが多いのであるが、右法律による取締の対象とならないもの、すなわち、当該預金に関連して貸付けがなされるが、右貸付けを受ける第三者は、本来正規の貸付けを受けうるもので、しかも十分な担保を供しているという場合も、預金と貸付けとの関連性に着目してこれを導入預金ということもあるのである。そして、右田中証人および久村証人の各供述は、その全体の趣旨からすれば、前記各相互銀行においては右取締の対象となるような導入預金をしたことはないことを強調したにとどまり(同証人らの立場上、右の点を極力否定するのは、むしろ自然な態度と考えられる。)、当該預金と貸付との間に、何らかの関連性のあることまで否定したものとは解されない。したがつて、右の各供述によつても、本件各定期預金は導入預金ないしは協力預金として預け入れたものであるとの前示認定が左右されるものではない。

証人横地良三の証言のうち、右認定に反する部分は、前掲各証拠に対比し措信することができない。

以上のほか、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三、当審における控訴人本人尋問の結果のうち、原判決の認定に反する部分は、原判決が右認定を支持するものとして挙示した各証拠に対比し、とうてい措信することができない。

以上の次第であつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当である。

よつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口正夫 裁判官 宮本聖司 裁判官 新村正人)

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